Murcie'lago Test Driving Report
※この試乗記はJLOC広報の明嵐正彦が執筆、月刊自動車雑誌『GENROQ』に掲載されたものの原文です。

>>プロローグ「ニアミス」
 あのエトナ山での劇的なムルシエラゴの発表からほぼ1か月ぶりに、私はランボルギーニ社に行くことになった。今回はGENROQの取材としてムルシエラゴの撮影と試乗をお願いしたのだが、その前にちょっとしたハプニングがあった。
 11月8日夜までにミラノのリナーテ空港に着くようチケット会社に依頼したところ、コペンハーゲン経由のスカンジナビア航空のチケットが手配された。
 ところがコペンハーゲンに着くと、何故かリナーテ行きの便が同じミラノでもマルペンサ行きになっているのだ。マルペンサ空港はミラノ市内まで離れていて、列車かバスで行くのだが、私は市内に近いリナーテをいつも選んでいた。
 どういうわけかと思っていたらリナーテ空港で飛行機事故、しかもスカンジナビア航空機である。これはニアミス(直前の便)だ。
 こんな状態だから、コペンハーゲンからマルペンサに着陸した瞬間機内で拍手する人も多かった。しかし、ホテルに着いたのは午前0時を過ぎており、翌日寝不足のまま早朝の列車に乗った。
 ミラノ中央駅からボローニアまでノンストップのインターエクスプレスでボローニアまで約1時間30分、そこからタクシーでサンタアガタ・ボロネーゼのランボルギーニ社まで約20分、というわけで、午前10時にはランボルギーニ社到着。
 ここで広報責任者のセルジオ・フォンタナ氏に面会した。フォンタナ氏は、発表会の時にお会いしたのが初めてだが、私のことを良くおぼえていてくれた。ムルシエラゴの試乗の件は明日サーキットでマスコミ試乗会をするからその時ということだったが、公道で乗りたいというリクエストをすると、しばらく考えていたが、それでは他のマスコミには許可していないが今から撮影と試乗に行ってきてくださいということになった。これは超ラッキーなことだ。

試乗レポート
 9月にちょっとだけ試乗したのは、グリーンメタリックのムルシエラゴだが、今回はグレーメタリックである。ドライバーは前回もお世話になったモレノ氏だ。
 モレノ氏のドライブで本社を出てまずすぐそばの並木道に入った。ここは昔から撮影に向いているとロケハンしていたところなのだ。難点をいえば未舗装ということだが、それがまたいい。
 数カットを撮り終えて、いよいよ試乗の時間である。再び舗装路に戻ったムルシエラゴは水を得た魚、いや檻から放たれた猛牛となってワインディングを走りはじめた。ホイールスピンやスキール音を出しながらのドライブ。モレノ氏は私のドライブのためのウオームアップというが、これがウオームアップなら私は公道レースをしなければならない計算だ。
 エンジンやミッションオイルはもちろんブレーキディスクもけっこう温まってから、おもむろに路肩に停車してドライバーズシートを譲られた。
 前回はグリーンのクルマにほんの少しだけ乗ったが、今度は好きなだけ運転していいとのことで、やはりわくわくしてくる。スーパーカー、特にランボルギーニは、今から乗るぞという気構えが必要なのと、やはりこのわくわくする気持ちが起きなければならない。
 それだけエキサイティングで楽しいドライビングを想像させるクルマ自体が放つオーラみたいなものが、この手のクルマには大切なのだ。
 ドライビングシートに座りステアリングポスト横のレバーを手前におろしてステアリングを調整する。モレノ氏は私より手が長いようで私のドライビングポジションではかなり手前に引いて水平に近い位置に修正した。狭い公道を飛ばすためテールが流れたら即座にカウンターをきれるようにステアリングを回す練習をして位置を決めた。
 監視役?のモレノ氏を横に乗せて私だけの試乗会が始まった。

>>ドライバー制動能力不足
 ブレーキシステムはディアブロの最近のクルマにフィーリング的には近いものだ。耐フェード性を試す機会はなかったが、しっかりしたストッピングパワーは確認できた。しかし、ブレーキは補助的に使ってシフトダウンを楽しんだ方が断然楽しいことは言うまでもない。
 ブレーキペダルを踏むより、はやる自分の心にブレーキをかけることが重要だ。そういう意味での制動能力は無論クルマにはないし、どちらかといえば興奮状態にする要素に溢れているといえる。つまりドライバー制動能力不足なのである。
 ボディ重量はディアブロ以上なのに、加速はともかく減速能力でディアブロ並にすることは大変だろう。フィーリング的には、加速もコーナリングもそしてブレーキを使った減速においてもディアブロより軽く感じるのだ。これは視覚的に小柄に見える(実際はそうではないのに)のと同じでムルシエラゴの驚くべき感覚的騙し術と言える。もちろん実際にはディアブロより大きく重いムルシエラゴなのである。
試乗レポート

>>インタビュー兼昼食は社員食堂で
 楽しい試乗会は昼食の時間が迫ることで終わりに近付いていた。再びモレノ氏にドライビングシートを譲って本社に帰る。本社に着いてハッと気が付いたのだが運転することに夢中でほとんど撮影していない。試乗記には自分の写真も必要だ。しかし、考えれば今回は一人できたので、自分の写真は先月澤田カメラマンに撮ってもらったものを使うことにしようと考えて試乗取材を終えた。
 社員食堂ではフォンタナ氏と、親友のバレンティーノ・バルボーニが待っていた。隣のテーブルにはグレコ社長以下重役陣がいて笑顔で迎えてくれる。フォンタナ氏に丁重にお礼を言ってムルシエラゴの個人的意見を聞くと、アウディとのパートナーシップでランボルギーニのテイストを100%出した新しいクルマが出来たと思います、というまさに広報部長!完璧な広報資料的な答えが返ってきた。隣のテーブルにグレコ社長がいることもあって個人的には話せないのだろう。
 バレンティーノはまた少しふけたようだが、いよいよカリスマ性が増して仙人といった風格が漂っている。彼はもうテストドライバーはしていないが、サービス窓口の重要な役職にある。いまだに世界中のオーナー達に絶対的な人気のあるバレンティーノは、グレコ社長も言っていることだが、ランボルギーニにはなくてはならない人物なのだ。たとえばあるオーナーが何か問題があって頭にきてランボルギーニに来ても、バレンティーノが顔を見せるだけでそのオーナーはまるで初めから何も問題がなかったかのように上機嫌で帰るのだ。

>>全然懲りない動力性能
 レッグスペースはタイトだが、左側のフットレストが大きく、各ペダル配置もペダル自体は小型だが操作性はよい。クラッチペダルもそれほど重くなく、むしろ600馬力近いパワーをリリースするには拍子抜けする程軽いと言える。
 スロットルペダルは、釣り下げ式のクラッチ&ブレーキペダルとは別で、フロアの箱状のケースから細長いペダルが伸びている。目で見ると無骨だが、足での感覚では悪くはない。ドライブバイワイヤー方式のこのスロットルペダルは、微妙なアクセル開度にも敏感に対応してくれるので今までのようなリアルワイヤー方式より確実にドライバーの意志がエンジンに、いやそれを制御するコンピュータに伝わる。
 目の前のメーターナセルのスピードメーターは静止状態で真下つまり6時を指し、9時位置で120km/h、12時位置で240km/h、そして3時位置で360km/hを示す。また、レブカウンターは6時が0、9時で3000rpm、12時で6000rpm、3時で9000rpm、7000rpmからイエロー、7500rpmからレッドゾーンであるが、今回は6000rpmまでにしておこうと決めた。(別にそんな制限はなかったのだが、調子に乗ってしまいがちな自己制御のために) 試乗会場は私もよく知っているファクトリー近くの片側1車線のローカルロード、スタートして1速から丁寧に6000まで引っ張って加速すると4速に入ってすぐにこの道路では危険な速度領域になる。直線は長く見通しもいいので、エイッとばかり4速6000から5速に入れる。速度計のハリは真上を超えて右に振れている。オーバー240km/hだ。5速というのにスロットルをさらに踏み込むと懲りない加速がまた始まる。
 コーナーが近付いて、いやコーナーに近付いてきたのでシフトダウンする4、3、2とリズムよく減速してコーナーを2速でクリア、さらに加速に入る。となりのモレノ氏が拍手してくれた。
 その拍手にお構いなしにまた6000rpmを守って加速していく。よどみない加速はビッグトルクによるものだがキヤ比も良く選ばれており、2、3、4はスピードは違うもののほぼ同じ感覚のレブ落ち込みでシフトアップする。レブカウンターを見ながらシフトアップすると、1速6000で2速にシフトアップすると4000ちょっと、同じように2速6000から3速では4500、4速では4500強、4速では5000強を示した。6速を本格的に試すには空いている高速道路が必要だが、今回はアウトストラーダで走ることはできないので4速6000からひとつ飛ばして6速に入れてみた。レブカウンターは4500強を示し踏み込めばそれなりの強烈な加速をする。
 前回も試したが、6速のまま50km/hまでスピードを落とし、そこからスロットルを開けると120km/hまでは少しゆっくりだがなんのストレスもなく加速していく。200km/hを超えるとその加速感は強烈になり、240km/hを超してその加速感は本来のものとなる。まさに懲りない加速だ。

>>引き締まった悩殺的な足
 十分に加減速を楽しんだあとは、足まわりに感覚を絞って乗ってみる。そういえば加速時のスクォート(フロントの浮き)はおろか急減速でのダイブも強くは感じられなかった。かといって硬いわけではない。加速しながらのコーナリングではわずかに外側後方が下がる感覚があるが、ロールしている感覚は少ない。
 ボディ剛性に関してのフィーリングはディアブロ以上、カウンタック5000QVのそれに近い。これはあくまで感覚的なものだが。シフトゲートのすぐ後ろにはディアブロと同じようにショックの減衰力調節が4段階でできるスイッチがあるが、鈍感な私には、ほとんど変わった感覚を得ることはできなかった。
 タイトコーナーの切り返しではノーズの回頭性を確認できた。加速しながらでももちろん問題ないがフロント加重でステアリングを切れば反応は早い。ただし交差点のターンやパーキングのような取り回しはディアブロ並みのクルマの大きさを感じる。外から見るとディアブロより小型に見えるが、実際のサイズはホイールベースも含めてわずかにディアブロを上回るのだからしかたがない。
 高速での足の動きはいい。バンピーな路面も飛ぶことなくしっかり接地している。縮み側はやや硬いが伸び側はけっこうフレキシビリティーがある。これなら轍のある高速道路でも素早いレーンチェンジが安全に楽しくできるだろう。
試乗レポート
 あのバレンティーノ・バルボーニ本人が対応してくれたというだけで問題は解決なのである。まさに仙人ならではなし得ない不思議な魔力なのだ。その仙人にムルシエラゴの感想を聞くと、先日ムルシエラゴでスイスの方までロングドライブをしたけど、とてもエキサイティングで楽しかったよとのこと。デザインは?と聞くとウインクして全然違う話を始めた。どうも仙人はムルシエラゴのスタイリングはあまりお気に召さないらしい。でも私は知っているのだ。この仙人様は11年前、私がディアブロについて同じ質問をした時にもまったく同じ反応をしたのだ。しかもイタリアンの典型というべきか、その時から1年もたったらディアブロが最高とのたもうたのだ。
 だから私は確信している。たぶん、後1年もすれば、ムルシエラゴも仙人お気に入りのランボルギーニとなっていることだろう。

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